Home > Column
 

それぞれのクライマックス
2005.11.30
11月は僕の身の回りでお祝い事が多々あった。
一つは全日本選手権でSSC(湘南スポーツセンター)時代からの後輩(と、呼んでいいものなのだろうか?)岩淵聡選手(以後”ブチ“)が念願のシングルスで優勝したことだ。ダブルスでの優勝タイトルは何度も手に入れているブチだが、シングルスは99年に本村剛一選手と対戦して敗れた準優勝止まりだった。僕もテニス界は長い分、毎年誰かしら知り合いや友人が優勝を果たすのだけど、ブチの勝利は何が違ったかって、「ブチ」本人が確実に違ったんだ。

僕が16歳で彼が12歳。(おいおい、それって18年前・・僕も年とったなぁ・・・)僕がSSCで練習に励んでいたその頃、ブチのことはまだ「チビ」ぐらいにしか思っておらず、とはいえ抜群のテニスセンスの持ち主が隣のコートで練習していたのをよく覚えている。僕達同期の間では彼を「アイスマン」とよんでいた。僕だったらヒーヒー悲鳴上げるトレーニングも、クール顔でこなし、僕だったら全身全霊で飛び跳ねて喜ぶ状況も、無表情で受けとめていたからだ。そのせいか、誤解(?)も多く「ガッツを出せ!」「もっと一生懸命やれ!」とよく怒られていた。

2005年全日本決勝の日曜日、僕は車で移動中。生中継でブチがプレーしている。「今年はブチと添田剛が決勝か・・」と、その瞬間!僕は思わず車をサイドに止めて音量をMaxにした。あのアイスマンが「カモーン!」と声を出している!!!!ましてガッツポーズまで・・うそだろ?冗談だろ?何が起きているんだ?1本1本声を出し、気合はテレビのスクリーンを通しても熱く伝わってくる。こんなブチは初めてだ。本当に初めて。この信じがたい映像を僕の脳みそが認識するまで時間がかかる・・家族への想いなのか、男としての責任なのか、選手としての意地なのか、なんなのかは分からないが、間違いなく何かを賭けて戦っている。僕は小さい車の中の小さいテレビに釘付けになりながら胸が(目頭も)熱くなっていた。ブチが優勝したその瞬間、ものすごい歓声の中、あの有明のセンターコートに倒れるように喜びを表現しているブチの姿を見て僕の体は鳥肌だらけになり、(このコラムでは恥ずかしくて書けないくらい)感情がこみ上がった。後で聞いた話だが、優勝した瞬間、ブチの愛娘がその父親の姿をみて「パパー!」と泣き出した・・と。4歳の子供の理解力は(個人差は多少あるのだろうけど)僕も4歳の息子を持つ親なので、大人の想像を遥かに超えることを知っている。ブチのあの姿が愛娘の潜在意識に記憶されることが羨ましかった。ブチ、本当に、本当におめでとう!!

そしてめでたい話はまだ続いて、昨年現役を引退した僕の悪友、増田健太郎選手が(以後“健太郎”)、トレーナーでもある笹川晴美さんと11年間の付き合いを経て、とうとうゴールインした。

僕と健太郎はかれこれ20年近くの付き合いになる。僕が山梨から神奈川に住み移った高校3年間、毎晩のように彼の実家で夕食をご馳走になり、朝に本当に弱い僕を毎朝当時住んでいたアパートまで起こしに来てくれた。(これがまたプロレス技をかけてくるから、シブトイ僕もさすがに切れて起きるはめになる・・というパターンで・・)クラスも一緒、席も隣、テニスの練習も一緒、いつも一緒だった。唯一ともに行動しない時間というのは毎週火曜日の休み、小守スポーツでマッサージを受けるとき。それもそうだ。健太郎はそこに入ってきた新しいトレーナーの笹川さんに一目ぼれをしてしまったのだから。あれから11年かぁ・・・。

健太郎は現役中結婚はしない、とこだわっていたのもあったけど、しかし笹川さんもよくその頑固さとあのわがままに耐えたものだ。でも実は少し分かる気がするんだ、笹川さんが待ち続けた理由、信じ続けた訳、支え続けた道理。健太郎は僕を茶化したり、いたずらしたり、騙したり、「やられたー!」と思うことがいまだにある。でもそれを全てひっくり返して、帳消にするようなこともしてくれる。これも高校時代の話になってしまうが、いつでも一緒だった僕達は海外遠征の代表選手に選ばれるときも一緒だったんだ。それがある夏、試合に負けたため、僕だけがいつものメンバーから外されて一人で残ることになってしまった。落ち込んでいる僕を茶化したまま、健太郎は遠征に行ってしまい、僕は相当ブルーになりながら学校に通った。つまらない授業が始まって、ノートを開くと大きく「ここで負けるな。あの強烈なフォアハンドを忘れるな!」と書いてあり、遠征先からも何通かに分けて手紙を送ってくれてどんな選手がいて、どんなプレーで・・と全て遠征先でおきている事を報告してくれたんだ。僕はこのとき本当に彼に救われて、復帰できた。プロ転向してからの現役時代も、正直彼の真っ直ぐな姿勢に励まされることが多かった。最後は優しい。そんな奴だった気がする。

その健太郎が結婚式で「親には感謝している。愛している。」とスピーチしている。その言葉の重みが伝わったり、笹川さんのうれし涙だったり、懐かしい顔ぶれ(仲間)だったりで、僕はものすごく穏やかな空間の中、頭があがらない先輩達・貫禄が出てきた同期達・輝かしい後輩達が皆揃う中、時代の流れを感じ、そこにいれる自分を少し誇りに思えた。健太郎、おめでとう!笹川さんと幸せな家庭を作り上げていって欲しい。(それと照れ臭くて面と向かっては言えないから)この場をかりて・・ありがとう。

Copyright 2005. Ishii Tennis Academy. All Rights Reserved. Privacy Policy